「長崎さるく博」で大規模集客を
長崎で、今年、日本で初めての「まち歩きの博覧会」を開催します。「まち歩き」が今後の観光の決め手であることは、観光関係者なら誰にも頷いてもらえそうなのですが、それが大規模集客に結びつくのか、有力な旅行商品となりうるのかについては、今後いくつもの試行錯誤を重ねなければなりません。『長崎さるく博』と銘打った大型観光イベントは、そのような課題への最初の挑戦です。
「長崎観光はグラバー園と平和公園だけではない」という長崎市民の思いが「まち歩きの博覧会」という企画に発展しました。長崎には日本一を自負する一千万ドルの稲佐山夜景もあれば、『長崎ぶらぶら節』の丸山花街も、龍馬も海舟も歩いた中島川や眼鏡橋もあり、さらには長崎奉行所跡に「長崎歴史文化博物館」が完成し、あの「史跡出島」も往時の町並みを復元して甦ります。来て、見て、歩いてもらう長崎観光のしくみづくりを、長崎市は3年がかりで構築してきました。ちなみに「さるく」とは長崎弁で「ぶらぶら歩く」ということばです。
まず、四十二ものまち歩きコースをつくりました。なにしろ長崎は、南蛮・中国交易、開国、原爆とまちじゅうに「歴史」がふんだんに残っています。それを厳選して、地元の住民総がかりで練り上げ、既成の旅行案内書にはみられないユニークなコース案内をマップにまとめました。マップ片手に気ままなまち歩き(長崎遊さるく)の基本ツールです。もっと面白くしようということで、コースごとにガイドさんを養成しました。その数、すでに四百人を超えます。学生さんから熟年のベテランまで、中国や欧米からの留学生も含む多才なガイドさんが、自身の長崎体験をまじえてその人ならではの見方で長崎のまちをご案内します(長崎通さるく)。さらに面白くということで、芸能や伝統のうんちくをその道の専門家に学びながら「さるく」という企画を、七十四テーマもつくりました(長崎学さるく)。
一昨年と昨年、長崎市民を対象に企画の一部を公開してプレイベントとしてやってみたのですが、これが大当たり。「長崎ば、さるかんね」「ばってん、和華蘭(わからん)やろ」と長崎人が自分のまちにびっくりする始末です。すでに人気を集めるガイドさんも現れて、ちょっとしたまち歩きブームといったところ。驚いたのは、うんちくの「長崎学さるく」で、「お座敷遊びと卓袱(しっぽく)料理」という参加料が二万円もする企画があっという間に定員を超えるなど、どの企画も大盛況です。
さて、『長崎さるく博』は今年が本番です。期間は四月一日から十月二九日までの二百十二日間というロングラン。長崎の観光インフラとして「まち歩きシステム」を定着させたいという意気込みで長期の期間を設定しました。
旅行商品として
期間中は、入場料こそ存在しませんが、長崎市街地が特別な演出を凝らした博覧会会場になります。自由歩き企画の「長崎遊さるく」のために、グラバー園では開国時代の衣装を着たお嬢さんが観光客のピクチャーサービスをやりますし、夏季にはグラバーさんのビール(開国期の!)が飲めるビアガーデンを重要文化財オルト邸で開宴します。夜には木立を真っ青に染めた光の森をつくります。週末には邸内で寸劇を楽しんでもらいます。復元された「史跡出島」だって、鎖国時代の「ある日」を再現した展示も見ものなら、カピタン(オランダ館長)や遊女の芝居も面白いでしょう。中島川での夏の夜市(よいち)も大正昭和のレトロでやります。グラバー園と出島と長崎歴史文化博物館の入館料と路面電車、さらに循環バス(らんらん)一日乗車券をセットにした「さるくパスポート」も販売します。いつ来ても特別におもしろい長崎の出現です。
もちろん、博覧会の目玉はガイドさんと歩く「長崎通さるく」。予約参加が原則ですが、定員に余裕があれば飛び入り参加も可能です。団体向けの別仕立ても臨時増便もあります。
人気の「長崎学さるく」は、準備の関係で事前予約がどうしても必要です。お座敷遊びや海底炭鉱探検、それに多彩な歴史探訪企画は今から人気が沸騰しています。
期間中、間断なく実施されるイベントも、訪れる観光客に長崎市民が技を磨いて提供する長崎エンターテインメントです。
いかがですか。「まち歩き」を集客旅行企画として成立させるための工夫が『長崎さるく博』に織り込まれていることがお分かりいただけたでしょうか。企画の詳細は「公式ガイドブック」(なんと、フリーペーパーです)をぜひご覧ください。
観光によるまちづくり
『長崎さるく博』は、長崎市の新しい観光構造を模索する試みですが、観光によるまちづくりを推進する試みでもあります。「観光のまち」を標榜することで生まれる市民のホスピタリティーが、都市の精神風土にまでなっていくことを期待しているのはもちろんですが、外部の人々に「見られるまち」を意識することで、高度なまちづくりが維持できるという期待も込めています。そのためには多くの市民の直接参加が欠かせません。『長崎さるく博』は、企画やコースづくり、マップ制作などに百人に近い市民プロデューサーが携わり、六百人を超えるガイドさんやサポーターの参加で実施されようとしています。新しく企画したイベントも、昔からあった長崎くんちや精霊流しがそうであるように、すべて市民エネルギーの発現です。
観光行政や市民活動に関心のある方は、『長崎さるく博』がどのように企画され、実施され、どのように機能し、どう発展していくのかを「本番」で確認していただきたいと思います。長崎では、市民事業に一肌脱ぐ市民を「のぼせもん」といいます。『長崎さるく博』は「のぼせもん」のパワーを結集した事業です。
長崎は実に不思議なまちです。ポルトガル人がまちを開いたという出生の不思議さもさることながら、中国やオランダや、またイギリスやアメリカ、さらにはロシアとの「接点」をいつも担ってきたまちであり、そのことによる悲喜劇の跡がいまでも色濃く残っているまちです。日本のまちとしてはまったくの異質都市でしょう。しかし、このまちの記憶こそ、現代日本に直接結びつく貴重な記憶です。長崎の「まち歩き」を通して、私たちはその記憶を改めて確認し、それを次の世代に伝えようとしています。皆さんも、どうぞ私たちとご一緒に歩いてください、長崎を。お待ちしています。
(ツーリズム・イベント・プロデューサー)
*本稿は(社)日本観光協会発行『月刊観光』2006年1月号に掲載されたものです。
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