日本ではじめてのまち歩き博覧会 長崎さるく博’06
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観光都市として特異な地位を享受してきた長崎市が、観光客の減少に戸惑っている。長引く不況で、どの観光地も一様に観光客の伸びは思わしくないが、そのことのほかに長崎は近頃の観光客の変化を実感することになった。まず、修学旅行生と団体客が激減している。これは日本の観光需要の構造的な変化で、長崎とて免れるべくもない。一方で個人客は着実に増加しているようにみえるが、個人観光客の受け入れもマンネリに陥っていてマイナスを補うほどではない。相も変わらず長崎観光は北九州旅行の途上の1泊2日で、ちゃんぽんか皿うどんを食べて、グラバー園と平和公園を見てまわって、足早にハウステンボスに向かうというワンパターンから脱却できない。それでも長崎が観光入込客数で500万人(西端のターミナル都市なので数値を正確に計測することができる)を維持しているというのは、長崎が本来的に観光的魅力にすぐれている都市であることを示している。そこで、市民と市が共同で「観光アクションプラン」を作成して、その観光的魅力をさらに掘り起こして、個人観光客の増加を図る具体的な計画を練った。
 まち歩き博覧会『長崎さるく博』がそれである。
 長崎は、市販されている観光ガイドブックに紹介されているよりも、もっともっと面白い。坂本龍馬も高杉晋作も勝海舟も福沢諭吉も大隈重信も、長崎で民主主義を学んで維新に臨んだ。シーボルトの謎も、蝶々夫人のロマンも長崎でのことだ。愛八のぶらぶら節も精霊流しの爆音も長崎ならではの風情だ。龍(じゃ)踊り、カステラ、ハタ揚げ、くんち・・・異国情緒だというが、それこそ長崎の生活風景である。それらを直接たっぷりと味わってもらうには長崎のまちを歩いてもらうのが一番よい方法であると、市民と市は考えた。「さるく」とはぶらぶら歩くという長崎弁。こうして日本ではじめてのまち歩きの博覧会『長崎さるく博』が構想された。
 パビリオンにあたるものは、居留地の洋館群や坂段の道や丸山の料亭街や浦上の悲劇の歴史やキリシタンの祈りの丘で、なんと40を超えるまち歩きコースを設定した。観光名所コースから市民でさえ知らなかった長崎の探検コースまで、1コースが1時間半程度の「さるくコース」で出来上がっている。各コースにはガイドツアーも定時に用意されている。さらに薀蓄(うんちく)を窮める特別の長崎学コースもある。いま、それらを構築中で、来年度早々には全容をご披露することができるだろう。博覧会だから演出的なイベントもいっぱい計画しているが、基本はあくまでもまち歩きという長崎観光の新しいスタイルの提案であり、次世代の都市観光のあり方の模索以外のなにものでもない。
 都市観光の担い手は、あくまでもそこに住む市民でなければならない。この考え方を貫くために、『長崎さるく博』では市民プロデューサーを起用して企画の発想をゆだね、地域を巻き込んだ市民行動をリードしてもらう。現在、32名ほどで、コース設計やマップづくりはすべて彼らの手によってなされる。最終的には百数十名になるだろう。のべ数百名になるガイドさんももちろん市民である。イベントのプロデュースと実施も、市民業者の手による長崎市民主義を徹底した。長崎の観光事業は長崎市民が担わずに誰がやるというのだ。
 さて、こうした構造をもつ『長崎さるく博’06』は、市民が自分のまちを観光するという内需効果と、九州四国中国はもとより首都圏や関西圏からの観光来訪者による外需効果を、市の経済ファンダメンタルズとしてまともに期待している。06年は本格起動の年であるが、この構造は07年08年と受け継がれ、都市観光の基本構造としてより充実した内容をもって長崎に定着してゆくだろう。市民が自分の住む都市の魅力を意識し、他者から見られることを通して自らの都市づくりをすすめてゆく。観光という視点からの都市づくりだ。その過程で、都市のもつ記憶が未来に受け継がれ、伝統が形成されてゆく。このようにとらえると観光による都市づくりはそこに住む市民の義務ではないか。このような都市観光の開発は、昨年の日本観光協会が主催した都市観光活性化推進会議(木村尚三郎座長)でさかんに議論されたことでもあり、日本の多くの都市がかかえる課題である。長崎は、その課題に正面切って挑みたい。
 今年の10月23日から1ヶ月、実は、4つの「さるくコース」と4つの「長崎学コース」で、長崎市民に呼びかけてプレイベントをやってみる。グラバー園と平和公園以外の長崎がどれほど面白いかを実験してみる。本番は2年後、用意周到に準備して、長崎は全国のまち歩き観光人を待ち受けたいと思っている。(ちゃたに・こうじ ツーリズム&イベント プロデューサー)

*本稿は(社)日本観光協会発行『月刊観光』04年12月号に掲載されたものです。

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